国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2014年9月)
この月刊シリーズ記事も今回で第4号(三号雑誌を脱した!)。今月も国立国会図書館デジタルコレクション(以下、NDLデジコレ)公開範囲の変動を追ってみた。
ちなみに、毎月のNDLデジコレ公開範囲の変動を追ったバックナンバーはこちら。
- 国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2014年6月)
- 国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2014年7月)
- 国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2014年8月)
国立国会図書館デジタルコレクション書誌メタデータ 2014年9月の変動
NDLデジコレのメタデータについて、2014年9月1日から2014年9月30日までに変更のあったレコードは56,068件であった*1。
今年8月末時点のデータにおいては、「資料種別」*2が「図書」であるもののうち、「著作権に関する情報」*3に「インターネット公開」を含むものは350,030件であったが、9月30日までの更新を適用したデータにおいては349,840件となっており、190件減少している。
資料種別が「図書」であるものについて、資料数内訳は以下の通りであった。
著作権に関する情報 (dcterms:rights) | 8月末 | 9月末 | 差 |
---|---|---|---|
インターネット公開(許諾) | 6813 | 6813 | 0 |
インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2009/12/18 | 0 | 1 | 1 |
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2009/12/18 | 173 | 173 | 0 |
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2009/12/18; 2010/12/27 | 32 | 32 | 0 |
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27 | 50452 | 50452 | 0 |
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27; 2012/03/01 | 29 | 29 | 0 |
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01 | 33851 | 33850 | -1 |
インターネット公開(保護期間満了) | 258680 | 258490 | -190 |
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 | 502821 | 502985 | +164 |
館内公開 | 63916 | 63951 | +35 |
(未設定) | 1 | 1*4 | 0 |
(総計) | 916768 | 916777 | +9 |
(内、インターネット公開分合計) | 350030 | 349840 | -190 |
2014年7月の変動で、いったん解消された「著作権に関する情報」の表記揺れが再び発生している。
さらに「著作権に関する情報」変動の内訳を見てみる。
著作権に関する情報 (dcterms:rights)の変動 (8月末 → 9月末) | 件数 | 注 |
---|---|---|
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01 → 館内公開 | 1 | *5 |
インターネット公開(保護期間満了) → インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2009/12/18 | 1 | *6 |
インターネット公開(保護期間満了) → 国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 | 166 | (後述) |
インターネット公開(保護期間満了) → 館内公開 | 33 | *7 |
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 → インターネット公開(保護期間満了) | 1 | *8 |
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 → 館内公開 | 1 | *9 |
新規 インターネット公開(保護期間満了) | 9 | (後述) |
新規インターネット公開資料
上で見たように、(公開範囲変更や資料種別変更ではなく)純粋に新規にインターネット公開(保護期間満了)となった資料が9件あった。もし新規にデジタル化されたのであれば、ここ数か月、書誌メタデータの変動を見てきたなかで初めてではないだろうか。
9件の内訳は、電子展示会「近代日本とフランス―憧れ、出会い、交流」に向けた資料5件と、個人寄贈資料4件である*10。
観世流大成版謡本一時公開停止
上で見たように、インターネット公開(保護期間満了)から国立国会図書館/図書館送信参加館内公開に変更されたものが166件あった。
これらは、2014年9月12日付けで国立国会図書館からアナウンスがあった次の内容と一致する。
観世流謡本(大成版)166点のインターネット公開を当面の間停止します。その間、図書館向けデジタル化資料送信サービスでご利用になれます。
http://dl.ndl.go.jp/information?targetInformationDate=2014-9
このブログのシリーズ記事で見ているように、著作権保護期間満了として公開されていた資料が館内公開に変更されることはしばしばあるが、その都度アナウンスされることはない。今回のアナウンスにいたった背景には、どのような動きがあるのだろうか。
166件の内訳は、シリーズタイトル*11に「観世流大成版」を含む資料132件、タイトル*12が「[観世流謡本]」であって注記*13が「大成版」となっている資料33件に加え、世阿弥の伝記と思われる資料『世阿弥』(小林静雄、1909-1945)1件となっている。
2014年8月に国立国会図書館/図書館送信参加館内公開から館内公開に変更された資料2件(『観世流節の精解』と『鵜飼』)、上で見た9月に国立国会図書館/図書館送信参加館内公開から館内公開に変更された資料1件(『世阿弥 : 金剛流新曲』)も含め、これらはすべて同じ一つの出版社(謡本出版・能楽専門出版社)による資料である。
一定数の資料が一時的に公開停止になるとのアナウンスは、近デジ『大正新脩大蔵経』等公開停止問題(以下、近デジ大蔵経問題)を想起させる。
2013年6月7日に近デジでの「インターネット公開を一時的に停止」し、2014年1月7日付けアナウンスで「インターネット提供を再開する」とされた『大正新脩大蔵経』は、未だインターネット提供が再開されていないし、その後の検討状況も公けにされていない。
観世流大成版謡本の出版社のサイトを見ると、デジタル化資料と同様のものが現在も出版されているように見える(現物を確認していないので、ほぼ同じなのか、まったく同じなのか、もしくは別物なのかは断定できない)。
この点では、近デジ大蔵経問題と類似している。一方で、近デジ大蔵経問題ではインターネット公開から館内公開に変更されたのに対し、今回の観世流大成版謡本では国立国会図書館/図書館送信参加館内公開(図書館送信対象)に変更されているという違いがある。
本来、図書館送信は絶版等資料が対象であって、市場に流通在庫があるものは対象外であり、今回の資料がその公開範囲に変更されたことは不思議に思える。
観世流大成版謡本について、観世左近(元滋)(1895-1939)のみに著作権があるのであれば、著作権保護期間は満了している。観世流大成版シリーズのうち、現在もインターネット公開が継続されている『住吉詣』などを見ると、挿絵があるが、そのクレジットは表記されていないようだ。
今回の資料が、本来インターネット公開できる資料であるが、「商業出版に対する何らかの考慮の必要性」*14からインターネット公開を停止し、落としどころとして図書館送信対象に変更したものなのか、実際に著作権保護期間が満了していない可能性があり、その確認のためにインターネット公開を停止したのかは、国立国会図書館のアナウンスからは分からない。
2014年1月24日に行われた「緊急シンポジウム:近デジ大蔵経公開停止・再開問題を通じて人文系学術研究における情報共有の将来を考える」では、下田正弘氏から次のような指摘があった。
今回の謡本出版という分野も同様であろう。
このとき指摘された議論を行う上でも、国立国会図書館には今回の措置の背景および今後の見通しをアナウンスしてもらえないものだろうか。
国立国会図書館の「LODチャレンジ2014用データセット」公開
先月の記事で取り上げた、国立国会図書館の「LODチャレンジ2014用データセット」が公開された。
この内容については「増刊号」で詳しく取り上げたので、そちらを参照のこと。
*1:国立国会図書館サーチが提供するOAI-PMHを利用した。
*2:dcndl:materialType
*3:dcterms:rights
*4:『帝国図書館雑誌新聞目録』、注記に「図書館送信テスト」とあり。
*7:ある海外作家の全集で翻訳者の著作権が切れていない部分を含むと思われるものや、複数の寄稿者による集合著作物など。
*8:『奥の細道 : 素竜本』
*10:電子展示会「近代日本とフランス―憧れ、出会い、交流」に向けた資料5件(『Poëmes de la libellule』、『De la transaction』、『Dodoitzu』、『Diplomatic guide』、『Catalogue d’une collection de dessins et eaux-fortes par Paul Renouard』)と個人寄贈資料4件(『巖手沿岸古地名考』、『岩手縣沿岸大海嘯部落見取繪圖』、『三陸大海嘯岩手縣沿岸見聞誌一班』、『大海嘯各村別見取繪圖』)
*11:dcndl:seriesTitle
*12:dc:title
*13:dcterms:description
*14:国立国会図書館による報告書「インターネット提供に対する出版社の申出への対応について」 p.17より