国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2014年10月)

この月刊シリーズ記事も今回で第5号。今月も国立国会図書館デジタルコレクション(以下、NDLデジコレ)公開範囲の変動を追ってみた。

国立国会図書館デジタルコレクション書誌メタデータ 2014年10月の変動

NDLデジコレのメタデータについて、2014年10月1日から2014年10月31日までに変更のあったレコードは26,667件であった*1

今年9月末時点のデータにおいては、「資料種別」*2が「図書」であるもののうち、「著作権に関する情報」*3に「インターネット公開」を含むものは349,840件であったが、10月31日までの更新を適用したデータにおいては349,778件となっており、62件減少している。

資料種別が「図書」であるものについて、資料数内訳は以下の通りであった。

著作権に関する情報 (dcterms:rights) 9月末 10月末
インターネット公開(許諾) 6813 6813 0
インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2009/12/18 1 1 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2009/12/18 173 173 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2009/12/18; 2010/12/27 32 32 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27 50452 50452 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27; 2012/03/01 29 29 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01 33850 33850 0
インターネット公開(保護期間満了) 258490 258428 -62
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 502985 502985 0
館内公開 63951 63955 +4
(未設定) 1 1*4 0
(総計) 916777 916719 -58
(内、インターネット公開分合計) 349840 349778 -62

さらに「著作権に関する情報」変動の内訳を見てみる。

著作権に関する情報 (dcterms:rights)の変動 (9月末 → 10月末) 件数
インターネット公開(保護期間満了) → 館内公開 4 *5
インターネット公開(保護期間満了) → 書誌情報削除 58 (後述)
消えた書誌情報

今月も、以前は「インターネット公開(保護期間満了)」であったものの、現在は「館内公開」ですらなく、書誌情報が削除されている資料があった。

『数寄屋おこし絵図 : 附・数寄屋の沿革』という資料の一部で、この資料は以前は59件の書誌情報があったが、現在は「附篇」の1件を残して、残りの58件(起こし絵図1から58)は削除されている。

古書店の新着品案内によると、こんな資料(組み立てた写真あり)だったようだ。

インターネット公開されなくなったのが残念な資料である。(原資料は古典籍資料室に所蔵されている。デジタル化された資料は原資料の閲覧が認められないが、デジタルでは「館内公開」ですらなくなってしまったこのケースはどうなるのだろうか。)

デジタル化資料の民間事業者等への提供

先日、Amazon.co.jpが「国立国会図書館所蔵パブリックドメインの古書をKindle版で販売開始」(プレスリリース)したことに関して、以下のようなことをつぶやいたら、「そう思った人が書きなさい」と投げ返されてしまったので、簡単にこれまでの経緯を振り返り、ポインタを挙げておく。


何回目かの「電子書籍元年」と喧伝された2010年、3月に総務省文部科学省および経済産業省の三省合同開催による「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(通称:三省懇)が設置され、6月に報告が公表された。

同報告を受けて、2010年11月に「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」(文化庁)が設置され、2012年1月に報告が公表された。

同報告では、「検討事項① デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」において、「国会図書館が担うべき役割」として、次の3点を挙げている。

  • 国会図書館からの送信サービスの実施
  • 国会図書館の蔵書を対象とした検索サービスの実施
  • デジタル化資料の民間事業者等への提供

このうち、1点目の国会図書館からの送信サービスについては、2012年6月の著作権法改正を経て、2014年1月から「図書館向けデジタル化資料送信サービス」(図書館送信)として提供が開始された。

3点目のデジタル化資料の民間事業者等への提供については、同報告等を受けて、2012年から2013年にかけて「デジタル化資料等を活用した著作物の流通と利用の円滑化に関する実証実験事業」(文化庁)が実施され、その一環として、国会図書館保有するデジタル化資料を電子書籍化して配信する事業(文化庁eBooksプロジェクト)を民間事業者(野村総合研究所紀伊國屋書店)が受託した(配信は2013年2月〜3月)。

配信開始当初は、下のツイートのような難点があったが、後に改善された。

2013年7月に公表された同実証実験の報告書には、次のように記されている。

平成23年12月にとりまとめられた「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」の報告においては、「(国立国会図書館の)デジタル化資料を活用した新たなビジネスモデルの開発が必要」であり、「事業化に意欲のある関係者による有償配信サービスの限定的、実験的な事業の実施なども検討することが必要」であるとされている。さらに、平成24年5月に策定された「知的財産推進計画2012」においても、コンテンツのアーカイブ化とその活用推進の観点から、同旨の施策の実施が求められている。

(中略)

本実験が契機となり、国立国会図書館デジタル化資料をはじめ、既存のデジタル化資料を活用した新たなビジネスが創出されることを期待する。

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/jikken/pdf/h24_hokokusyo.pdf

余談だが、当時、Twitter文部科学省公式アカウントや紀伊國屋書店Kinoppyアカウント、福井主査や文化庁担当者は、ハッシュタグ「#bunka_eBooks」を用いて広報を行っていた。このことから、同ハッシュタグを用いて、古典籍の専門家などを含め、多くの意見がツイートされていたが、公表された報告書へは全く何の影響ももたらしていないことには拍子抜けした思いだった。

2013年6月には、国立国会図書館デジタル化資料のアクセス数ランキングで注目を集めた『エロエロ草紙』の復刻版が彩流社から発売された。ただし、彩流社の方へのインタビュー記事によると、近代デジタルライブラリー国立国会図書館デジタル化資料のうち、インターネットで閲覧可能な図書や雑誌に限定したサービス)の画像を利用したのではなく、特別に国会図書館から原本の複写を許可されたとのこと。(なお、同書は、文化庁eBooksプロジェクトでも国立国会図書館デジタル化資料の画像データを利用して電子書籍として配信されていた。)

2014年4月には、インプレスR&DAmazon.co.jpの協業により、近代デジタルライブラリーパブリックドメインコンテンツをプリント・オンデマンドで印刷・製本して販売する「NDL所蔵古書POD」が開始された。

インプレスR&Dの方へのインタビュー記事によると、AmazonからインプレスR&Dに打診がきて実現したようだ。一般ユーザと同じように近代デジタルライブラリーから画像をダウンロードして利用しているとのこと。

「NDL所蔵古書POD」で販売されている作品リストに、以前はインターネット公開(保護期間満了)であった図書で後に館内公開に変更されたものも含まれている点については、以前の記事で取り上げた。

2014年5月には、国立国会図書館ウェブサイトからのコンテンツの転載手続が簡便になり、著作権保護期間満了と明示している画像の転載については、転載依頼フォームからの申し込みが不要となった。(先のインプレスR&Dの方へのインタビュー記事でも、この点に触れられており、「改善された部分」と評されている。)

2014年8月には、「国立国会図書館内・図書館送信限定公開デジタル化資料の画像データの試行提供について」の詳細が公表されている(2014年5月に、提供予定とのアナウンスがあったもの)。これは、復刻・翻刻等を目的とした利用に限って、著作権保護期間内の資料についても画像データの試行提供を行うもので、以前の記事でも取り上げている。

そして、2014年10月には、Amazon.co.jpにより、近代デジタルライブラリーパブリックドメインコンテンツをKindle版として販売する「Kindleアーカイブ」が開始された。

なお、同サービスのプレスリリースや報道では「近代デジタルライブラリー上で公開しているパブリックドメインの古書」が対象と説明されているが、実際には「国立国会図書館デジタルコレクションのうち、著作権保護期間が満了した図書・古典籍資料(貴重書等)」である。これらはすべて、国立国会図書館デジタルコレクションで無料閲覧できる*6


また、2014年7月に決定された「知的財産推進計画2014」(知的財産戦略本部)では、「最重点5本柱」の一つとして「アーカイブの利活用促進に向けた整備の加速化」を挙げており(詳細は「アーカイブに関するタスクフォース報告書」も参照のこと)、それを受け、2014年9月から開催されている第14期文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会でも「著作物等のアーカイブ化の促進」が検討課題に挙げられている。

その他、オープンデータと国有財産法・財政法との関係については、2012年12月からの「電子行政オープンデータ実務者会議」(IT総合戦略本部)で議論されていた(財政法第9条第1項で、国の財産は法律に基づく場合を除き、適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならないとされていることなどと関連する)。同会議の成果は、2013年6月「二次利用の促進のための府省のデータ公開に関する基本的考え方(ガイドライン)」、2014年6月「二次利用の促進のための府省のデータ公開に関する基本的考え方(ガイドライン)」(改定)として公表されている。

ガイドラインでは、「単なる事実や数値データは、それ自体としては、著作物とはならず、著作権の保護対象にはならない。編集著作物やデータベースの著作物と認められる場合も、素材・数値データが著作物でない場合は、素材・数値データそのものを利用することは著作権法の観点からは制限されない。」「各府省がインターネットを通じて著作物を公開することについては、著作物が国有財産法第2条に規定する国有財産に該当しないため、国有財産法の適用はない。」とされている。

ガイドラインについては、「国立国会図書館サーチが提供するOAI-PMHで国立国会図書館デジタルコレクションのメタデータ(書誌情報)を取得した場合、得られたXMLは著作物性を有するのだろうか」(自由な二次利用の可否)という観点から、以前の記事で触れた。


こうして見てくると、「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」報告の「国会図書館が担うべき役割について」で挙げられた3点のうち、1点目は実現し、3点目も実例が現れてきていることが分かる。

2点目の国会図書館の蔵書を対象とした検索サービスについては、本文検索サービスの提供が必要(テキスト化が必要)とされていたが、残念ながらまだ提供が実現されていない。(同報告よりも前に、2010年度に「全文テキスト化実証実験」が実施されていた。)

国立国会図書館年報 平成24年度』には、「平成25年1月10日に東京大学知の構造化センター及び慶應義塾大学メディアセンターと、テキスト化調査研究に係る「協力に関する覚書」を締結し、OCRを用いた画像データのテキスト化工程に焦点を置いた共同研究を開始した。」との記述があり、NDLラボの「研究者の方へ」ページでは「募集する分野・項目」として「近代デジタルライブラリーで公開している著作権保護期間満了のデジタル化資料等を対象とした、OCRの高精度化や構造化の自動化、その検索。」を挙げている。

成果が公表されていなくても、研究開発は進んでいるのだろう。技術的な困難さ以上に、関係者間の協議が難しいと思われるが、いつの日か実現することを楽しみにしている。

雑感

「NDL所蔵古書POD」のときも「Kindleアーカイブ」のときも、プレスリリースや一般に報道される内容には、近代デジタルライブラリーの位置づけや提供コンテンツについての事実誤認が多く見られた。また、利用者側の反応にも、せっかく用意されている機能が、あまり周知されていないのではないかと思えるものもあった(もっとも、iPad等で(使えなくはないが)非常に使いにくいという点には同感)。


2012年5月に「近代デジタルライブラリー」が「国立国会図書館デジタル化資料」に統合されてから約2年半(当時は非常に動作が重く使いにくいシステムであった)、2014年1月に「国立国会図書館デジタル化資料」の名称が「国立国会図書館デジタルコレクション」に変更されて10か月。

未だに、「国立国会図書館デジタルコレクション」の名称よりも「近代デジタルライブラリー」「近デジ」の名が多く聞かれ、非常に使いにくかった過去から日々さまざまな改善がなされていることが知られていない(気付かれていない)ようであるのを見ると、他人事ながら非常にもったいない思いがする。

*1:国立国会図書館サーチが提供するOAI-PMHを利用した。

*2:dcndl:materialType

*3:dcterms:rights

*4:帝国図書館雑誌新聞目録』、注記に「図書館送信テスト」とあり。

*5:10月にTwitterで話題になった『ミツキーの手柄』は、やはり館内公開に変更された。残りの3件は研究報告(集合著作物)。「著者」(dc:creator)項目は団体名義で採られているが、各部分の著作権状態を確認するため、館内公開に変更したものか。

*6:例えば、「Kindleアーカイブ」で販売されている『南総里見八犬伝』は、国立国会図書館デジタルコレクションで「南総里見八犬伝」と検索すると、同じものが閲覧できる。一方、近代デジタルライブラリーで同じ検索を行っても、同資料はヒットしない。しかし、近代デジタルライブラリーの「よくあるご質問」で示されているように、先ほどの国立国会図書館デジタルコレクションでの閲覧URLの一部を近代デジタルライブラリーのものに変更すれば、近代デジタルライブラリーの画面デザインで表示される近代デジタルライブラリーの検索でヒットする古典籍資料(貴重書等)もあるが、その数は国立国会図書館デジタルコレクションで検索した場合よりも大幅に少ない