国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2016年7月)

「月刊NDLデジコレメタデータWatch」第26号。今月も国立国会図書館デジタルコレクション(以下、NDLデジコレ)の変動を追ってみた。

国立国会図書館デジタルコレクション書誌メタデータ 2016年7月の変動

NDLデジコレのメタデータについて、2016年7月1日から2016年7月31日までに変更のあったレコードは107,842件であった*1

6月末時点のデータにおいては、「資料種別」*2が「図書」であるもののうち、「著作権に関する情報」*3に「インターネット公開」を含むものは351,094件であったが、7月31日までの更新を適用したデータにおいては351,198件となっており、104件増加している。

資料種別が「図書」であるものについて、資料数内訳は以下の通りであった。

著作権に関する情報 (dcterms:rights) 6月末 7月末
インターネット公開(許諾) 7908 7962 +54
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01 33921 33913 -8
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01; 2015/11/10 36 36 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2015/02/09 21 21 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2015/02/09; 2015/11/10 3 3 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2015/11/10 44986 44986 0
インターネット公開(保護期間満了) 264219 264277 +58
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 506126 503906 -2220
館内公開 122480 124596 +2116
(総計) 979700 979700 0
(内、インターネット公開分合計) 351094 351198 +104

さらに「著作権に関する情報」変動の内訳を見てみる(表示スペースの都合により、「著作権に関する情報」の設定値を略記した)。

7月末 総計
許諾 裁定
2012/03/01
保護期間満了 館内公開
6月末 裁定
2012/03/01
13*4 1*5 14
図書館送信 41*6 6*7 57*8 2116*9 2220
総計 54 6 58 2116 2234

この表は、例えば、6月末時点では図書館送信であった図書で、7月末にはインターネット公開(保護期間満了)に変更されているものが57件あると読んでほしい。

例えば、慧琳『一切経音義 : 100巻』や、今年5月に『童貞の機関車』で話題になった島洋之助(1961年没)の著作『貞操の洗濯場』などが、図書館送信から保護期間満了へと変更されている。

パブリックドメイン図書の増加

図書館送信からインターネット公開(保護期間満了)へと変更された図書には、著作者が1965年に没し、2016年からパブリックドメインとなったものが含まれている。

ここでは、図書館送信から保護期間満了に変更された図書(新たにインターネットで閲覧できるようになった資料)の中から、いくつか著名な著作者のものについて取り上げる。

学者・宗教家など

楽家舞台芸術

上に挙げた「歌舞伎十八番」3件の著者は、NDLデジコレの著者標目では「市川, 海老蔵 9世, 1910-1965」「市川, 団十郎 10世, 1882-1956」となっている。保護期間満了に変更された資料には、同様の体裁を持った次の資料も含まれているが、こちらの著者標目は設定されていない。

これらの資料の奥付には、確かに「著作者 市川海老蔵 市川團十郎」とある。しかし、発行された時期(昭和5年昭和11年)を考えたとき、この記載を「市川, 海老蔵 9世, 1910-1965」「市川, 団十郎 10世, 1882-1956」と認定するのは正しいのだろうか。

8代目市川海老蔵明治19年に亡くなっており、堀越治雄が9代目市川海老蔵を襲名したのは昭和15年。また、9代目市川団十郎が亡くなったのは明治36年で、その後は団十郎空白期間が続き、堀越福三郎が没後に10代目市川団十郎名跡を追贈されるのが昭和31年である。上記の資料が発行された昭和5年から昭和11年にかけては、海老蔵団十郎名跡は空席だったこと考えると、この奥付で挙げられている著作者は、具体的な一人の人物としての「市川海老蔵」や「市川團十郎」ではなく、代々の名跡としての(観念上の)「市川海老蔵」や「市川團十郎」なのではないだろうか。

それが正しければ、奥付の「補修及訂正者」に名前が挙げられている堀越福三郎と堀越実子(1944年没)の市川宗家夫妻が実際の著作者(校訂者)ではないかと考えられるが、堀越福三郎は先に述べたように、死後、10代目市川団十郎となるので、「市川, 団十郎 10世, 1882-1956」の認定については結果的にこれで良いのかもしれない。しかし、「市川, 海老蔵 9世, 1910-1965」の認定については疑問が残る。

古典籍資料の公開範囲変更

資料種別が「和古書」であるものについて、今月も公開範囲に変動があったか調べてみた。

著作権に関する情報 (dcterms:rights) 6月末 7月末
インターネット公開(保護期間満了) 70696 70793 +97
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 17739 17643 -96
館内公開 5 4 -1
(総計) 88440 88440 0
(内、インターネット公開分合計) 70696 70793 +97

さらに「著作権に関する情報」変動の内訳を見てみる。

著作権に関する情報」の変動 (6月末 → 7月末) 件数
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 → インターネット公開(保護期間満了) 96 *10
館内公開 → インターネット公開(保護期間満了) 1 *11

シーボルト門人の論文や書簡を収めた『施福多先生文献聚影』(解題)や、5月の公開範囲変更で表紙と裏表紙だけがインターネット公開になっていた山本昇雲 画『子供あそび』の錦絵、6月の新規追加で唯一館内公開となっていた『[木下文書] 4』などがインターネット公開(保護期間満了)に変更された。

子供あそび おもちゃの勝負


子供あそび おもちゃの勝負
(Source: 国立国会図書館デジタルコレクション)


国立国会図書館資料のデジタル化

今月の『国立国会図書館月報 664/665号(2016年8/9月)』には、6月に新規追加されたデジタル化資料についての解説記事「国立国会図書館資料のデジタル化(震災・災害関係資料を中心に)」が掲載されている。

前回の記事でも取り上げた、「災害対応力強化のためのデジタルアーカイブ」の今後の図書館送信予定や全文検索機能について触れられている。前回の記事では、「災害対応力強化に資する資料」と地方史関係の資料は別の括りであると考えていたが、今回の解説を見ると、地方史資料についても災害対応力強化の観点からデジタル化されたようだ。

一般競争入札公告にみる電子化予定

国立国会図書館一般競争入札公告を見ると、デジタル化に関連する次の3件が掲載されている。


一般競争入札の公告
http://www.ndl.go.jp/jp/supply/nyuusatsu/ippan/index.htmlより抜粋

通番2と5の納入期限は平成29年3月17日となっている。今のところ、「デジタル化作業に伴う原資料の利用停止について」は平成28年4月28日現在の情報のままだが、いずれ平成28年度デジタル化作業の対象資料が示されるだろう。

通番3に関しては、デジタル化が主体の作業ではないが、企画展示で取り上げられた資料であってデジタル化が未実施のものについては後日デジタル化されて公開されることがあるので、若干量のデジタル化が期待できるかもしれない。

NDLデジコレの書誌情報オープンデータセット更新

7月1日、NDLデジコレの書誌情報データセットが更新された。

図書・古典籍・雑誌の書誌情報データセットは、2015年1月に初めて提供され(2015年1月26日時点の書誌情報)、その後、2016年1月の更新では博士論文の書誌情報も提供されるようになった(2016年1月5日時点の書誌情報へ更新)。今回の提供により2016年7月1日時点の書誌情報に更新されたことになる*12

最近のNDLデジコレへの資料追加では、かつては見られた追加資料リストの提供がなくなってしまったが、書誌情報データセットの更新頻度が年2回に高まることで、リアルタイム性はないものの、ある程度の追加資料追跡が容易に行えるようになるだろう。

今回公開された書誌情報の件数は次のようになっている。

資料種別 公開範囲
インターネット公開 図書館送信 館内限定
図書 351,301件 504,931件 110,755件
古典籍 76,557件 18,816件 5件
雑誌 14件 10,905件 2,292件
博士論文 14,670件 116,956件 9,278件

オープンデータセットに含まれる内容や、当シリーズ記事で掲載している件数との違いなどについては、初提供時に取り上げた記事を参照されたい。

*1:国立国会図書館サーチが提供するOAI-PMHを利用した。

*2:dcndl:materialType

*3:dcterms:rights

*4:上代文学選 上』、『日本行政法講義要綱』(第1分冊第2分冊上巻下巻 第1分冊下巻 第2分冊下巻上巻(訂6版)、上巻(訂7版)、下巻(訂4版)、上巻(訂9版)、下巻(訂7版)、上巻(訂10版))

*5:格言統一儒教宝典

*6:The cricket on the hearth = ザ・クリケット・オン・ザ・ハース』、『アメリカ通信』、『一茶研究』、『一茶雑記』、『岩波講座世界文学 第10』、『貝原益軒』、『機械工作』(第3講第5講第7講第11講第14講第15講第18講)、『機械設計製図』(第1講第6講第8講)、『基本機械工学』(第1講第4講第6講)、『原動機』(第6講第8講第10講第11講第13講第14講第17講第18講第20講)、『工場用諸機械 第6講』、『荒野に生れて : 白い牙』、『実用工学簡易表 1932年版』、『井泉水句集』、『井泉水俳句集』、『世界文學 : 及び一般文化におけるその位置』、『旅人芭蕉 〔正〕』、『東亜研究講座 第89輯』、『俳句教程』、『芭蕉読本』、『芭蕉・蕪村・子規』、『遍路と巡礼』、『無所在 : 句集

*7:国際金融総論』、『実践読方教育の新体系』、『世界経済概論』、『戦時生活と物価統制』、『大陸を旅して : 随感随想』、『勉強の仕方

*8:G線上のアリア』、『朝の庭』、『一路居士雑染画集』、『一切経音義 : 100巻』(1巻-14巻15巻-35巻36巻-[56巻]57巻-84巻85巻-続8巻一切経音義通検)、『海の童話 : 詩を伴ふ版画連作』、『梅の咲くころ : 感想集』、『家相方位寳鑑 : 幸福増進』、『危機克服の信条 : 世相国難について』、『紀要別冊文献蒐載』(巻1巻4巻8巻9巻10)、『句日記 昭和11年より昭和15年まで』、『毛抜 : 歌舞伎十八番之内』、『顕花植物 : 第五散文集』、『現代日本文学全集 第50篇』、『沙羅』、『施福多先生文献聚影』([7][8][10])、『暫 : 歌舞伎十八番之内』、『人材・島根 : 県人名鑑』、『人材・島根 : 県人名鑑』、『人生私語 : 随筆集』、『新版ユーモア小説全集 第10巻』、『随筆文学選集』(第4第四)、『助六由縁江戸桜 : 歌舞伎十八番之内』、『象引 : 歌舞伎十八番之内 寿小春狂言』、『高木相法秘伝書』(第1巻巻2巻3巻4巻5)、『短歌雑話』、『釣ところどころ』、『貞操の洗濯場』、『東亜研究講座』(第75輯第79輯)、『読画本 : 石濤山水』、『鶏の飼ひ方』、『俳句入門』、『翻弄された防諜官』、『南十字星 : 南洋紀行』、『矢の根 : 歌舞伎十八番之内』、『誘惑』、『雪と野菜 : 散文集』、『要点明示整理化学 : 学習受験』、『良犬を得る秘訣』、『良犬を得る秘訣』、『ルツボはたぎる : 創作

*9:tsvファイル参照のこと。

*10:『施福多先生文献聚影』([7][8][10])、『子供あそび』(なかよし兵隊さんだるまお庭床かざりおまつり大決戦天狗の面馬のりおもちゃの勝負大角力雪戦)、『聚學軒叢書』(第1集第3册第1集第4册第1集第5册第1集第6册第1集第7册第1集第8册第1集第9册第1集第10册第1集第11册第1集第12册第1集第13册第1集第14册第1集第15册第1集第16册第1集第17册第1集第18册第1集第19册第2集第21册第2集第22册第2集第25册第2集第26册第2集第27册第2集第28册第2集第29册第2集第30册第2集第31册第3集第34册第3集第35册第3集第36册第3集第38册第3集第39册第3集第40册第3集第41册第3集第44册第3集第45册第3集第46册第3集第47册第3集第48册第3集第49册第3集第50册第3集第51册第3集第52册第4集第53册第4集第54册第4集第55册第4集第56册第4集第57册第4集第58册第4集第59册第4集第60册第4集第61册第4集第62册第4集第63册第4集第64册第4集第65册第4集第67册第4集第68册第4集第69册第4集第70册第4集第71册第4集第72册第5集第73册第5集第74册第5集第75册第5集第78册第5集第79册第5集第80册第5集第81册第5集第83册第5集第84册第5集第85册第5集第86册第5集第88册第5集第89册第5集第90册第5集第91册第5集第92册第5集第93册第5集第94册第5集第95册第5集第96册

*11:[木下文書] 4

*12:ただし、サイトには「この書誌情報は平成28年7月1日時点のもの」と記載されているが、提供されている書誌情報tsvファイルのタイムスタンプは2016年6月23日になっている。