国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2015年7月)

「月刊NDLデジコレメタデータWatch」第14号。今月も国立国会図書館デジタルコレクション(以下、NDLデジコレ)の変動を追ってみた。

国立国会図書館デジタルコレクション書誌メタデータ 2015年7月の変動

NDLデジコレのメタデータについて、2015年7月1日から2015年7月31日までに変更のあったレコードは34,342件であった*1

6月末時点のデータにおいては、「資料種別」*2が「図書」であるもののうち、「著作権に関する情報」*3に「インターネット公開」を含むものは350,444件であったが、7月31日までの更新を適用したデータにおいては350,504件となっており、60件増加している。

資料種別が「図書」であるものについて、資料数内訳は以下の通りであった。

著作権に関する情報 (dcterms:rights) 6月末 7月末
インターネット公開(許諾) 7509 7519 +10
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27 46739 46786 +47
インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2010/12/27 1 0 -1
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27; 2012/03/01 27 28 +1
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27; 2015/02/09 8 8 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01 31287 31709 +422
インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2012/03/01 423 0 -423
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2015/02/09 53 53 0
インターネット公開(保護期間満了) 264397 264401 +4
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 506747 503234 -3513
館内公開 62419 65872 +3453
(総計) 919610 919610 0
(内、インターネット公開分合計) 350444 350504 +60

文化庁長官裁定を受けて公開している資料について、5月に発生した表記揺れが解消されている。

なお、今月は図書以外の資料種別のものについても、著作権に関する情報の曖昧さや表記揺れの解消が進んだ*4 *5

さらに「著作権に関する情報」変動の内訳を見てみる(表示スペースの都合により、「著作権に関する情報」の設定値を略記した)。

7月末 総計
許諾 裁定
2010/12/27
裁定
2010/12/27;
2012/03/01
保護期間満了 館内公開
6月末 許諾 1*6 1
裁定
2010/12/27*7
2*8 1*9 3
裁定
2012/03/01*10
1*11 1
保護期間満了 36*12 36
図書館送信 49*13 1*14 30*15 3433*16 3513
館内公開 11*17 7*18 18
総計 11 49 1 40 3471 3572

この表は、例えば、6月末時点では館内公開であった図書で、7月末にはインターネット公開(保護期間満了)になっているものが7件あると読んでほしい。

裁定に関する表記揺れにより全体の傾向が掴みにくくなるため、実質的に同内容のもの(裁定年月日の同じもの)同士の変動は省いた。

館内公開から保護期間満了へ

以前の記事で、J.C.ヘボンやW.H.メドハーストの和英・英和辞書などが保護期間満了に変更されたことを取り上げたが、7月には以下の図書が館内公開から保護期間満了に変更された。

  1. Colloquial Japanese : or, Conversational sentences and dialogues in English and Japanese, together with an English-Japanese index to serve as a vocabulary, and an introduction on the grammatical structure of the language / by Rev. S.R. Brown, A.M
  2. An English spelling-book, with reading lessons, for the beginners at the school Kaisei-dzio in Yedo』(『英語階梯』)
  3. Book for instruction at the school Kaiseizio in Yedo』(『英吉利単語篇』)
  4. Dictionnaire Japonais-Français
  5. Bibliographie japonaise, ou Catalogue des ouvrages relatifs au Japon qui ont été publiés depuis le XVe siècle jusqu'a nos jours
  6. De historiae naturalis in Japonia statu, nec non de augmento emolumentisque in decursu perscrutationum exspectandis dissertatio : cui accedunt spicilegia faunae Japonicae / auctore G.T. [sic] de Siebold
  7. Eerste beginselen der Nederduitsche spraakkunst ter dienste der scholen in Nederlandsch Oost-Indië』(『和蘭語学原始』)

1.は、サミュエル・ロビンス・ブラウンによる会話書。美華書館の出版物(1863年)。「S.R.ブラウン『日本語会話』との関係」で挙げられている「このカタカナは誰が書いたのであろうか」との指摘が興味深い。

2.と3.は、開成所による英語綴字教本と単語集。

2.では「fi」合字などを“Double letters”として紹介している。また、文字が転倒している箇所が確認でき、活字による印刷と推定できる。

3.については、明治3年に民間で再版された『英吉利単語篇 : 官許』は以前より公開されていたが、慶応2年刊の『英吉利単語篇』が加わったことになる(前者が白黒公開であるのに対し、後者はカラーで見やすい)。

4.は、レオン・パジェスによる日仏辞典。「幻の日葡辞書とヘボン」に同資料の解説がある。こちらの片仮名活字も気になるところ。

5.は、同じくレオン・パジェスによる日本図書目録。

6.は、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトによる日本博物誌。ラテン語手書きでの訂正箇所が多数ある。

7.は、オランダ語文法基礎の教科書。「電子展示会:江戸時代の日蘭交流」に同資料の解説がある。このページの匡郭に苦労が偲ばれる。

館内公開から許諾へ

館内公開からインターネット公開(許諾)に変更された11件の中から、次の2点を取り上げてみよう。

一つは、大植四郎編『国民過去帳 明治之巻』。人名辞典なのだが、辞典の引き方が少し変わっていて、まず名前から忌日を引き、次に忌日から人物説明を引くようになっている。

もう一つは、井上頼圀ら編『難訓辞典』。明治40年の初版はこれまでも許諾で公開されていたが(その1その2)、今回、昭和8年の2版も許諾に変更され、インターネットで閲覧できるようになった。

『国民過去帳』は1971年に、『難訓辞典』は1995年に復刻版が出版されている。復刻版が出ている資料は、インターネット公開されていても、いつの間にか館内公開に変更されていることがあるが、せっかく著作権者がインターネット公開を許諾してくださった資料、逆戻りはして欲しくないものだ。

保護期間満了から館内公開へ

インターネット公開(保護期間満了)から館内公開に変更された図書36件のうち多くは、いつものように集合著作物であったが、その中に車輛工学会編『全国機関車要覧』が含まれていた。これは集合著作物であるのか分からないが、1993年に復刻版が出版されている。その点と館内公開への変更は関係があるのだろうか*19

古典籍資料の公開範囲変更

資料種別が「和古書」であるものについて、今月も公開範囲に変動があったか調べてみた。

著作権に関する情報 (dcterms:rights) 6月末 7月末
インターネット公開(許諾) 48 48 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27 13 13 0
インターネット公開(保護期間満了) 69084 69100 +16
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 17679 17667 -12
館内公開 390 394 +4
(未設定) 8 0 -8
(総計) 87222 87222 0
(内、インターネット公開分合計) 69153*20 69161 +8

さらに「著作権に関する情報」変動の内訳を見てみる。

著作権に関する情報」の変動 (6月末 → 7月末) 件数
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 → インターネット公開(保護期間満了) 8 *21
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 → 館内公開 4 *22
(未設定)→ インターネット公開(保護期間満了) 8 *23

和古書では、1月22日付けで452件が館内公開へ変更されて以来、徐々に館内公開は解消されてきたが、今回、館内公開に変更されたものが新たに4件あった。

「古典籍資料なのに許諾による公開とは?」と一見不思議に感じる48件は、6月に館内公開から許諾に変更された『いますがた』*24である。

文化庁長官裁定の告示

以前の記事で取り上げた、2015年2月9日に改めて文化庁長官裁定を受けた図書60件について、7月14日の官報(号外第157号)に裁定内容が掲載された*25

利用期間は9年と長めで、補償金総額は10,083円。著作者名として、中島清、西村文則/西村才介、野村治一良、岡本米蔵、大月隆、大月隆仗、脇田登摩、堀内平次郎、佐川春水、下田文吾の10名が挙げられている。

このうち、佐川春水の2点については、以下の告示内容と現在のメタデータに齟齬があるようだ。

著作物の題号 著作者名 著作物の種類 補償金額
入学試験英語問題詳解 佐川春水 言語 97
教習実用英語蓄音機詳解 佐川春水 言語 97
http://kanpou.npb.go.jp/20150714/20150714g00157/20150714g001570002f.html

まず、『入学試験英語問題詳解』について、メタデータでは、明治40年度明治41年度の2件が「インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2015/02/09」となっている。

ところが、明治40年度の執筆者には、佐川春水が挙げられているものの、明治41年度の執筆者には、佐川春水は挙げられていない。

裁定を受けた『入学試験英語問題詳解』は、明治40年度のもののみなのではないだろうか。

また、『教習実用英語蓄音機詳解』については、メタデータでは「国立国会図書館/図書館送信参加館内公開」となっており、裁定によるインターネット公開はなされていない。

「近デジ」ブランドの消滅

7月21日付けのお知らせで、2016年5月末(予定)をもって、近代デジタルライブラリー(以下、近デジ)のインタフェイス(NDLデジコレの中身に近デジのガワをかぶせて提供していたもの)が終了されることがアナウンスされた。

現行の「国立国会図書館デジタルコレクション」には確立した略称がない中、多くの人々に親しまれた「近デジ」ブランドがついに消滅する。

上記の内田さんのツイートにある「国デコ」もまだ一般的に通じる状態ではないし、「デジコレ」の略称では一意性に欠ける。略称(愛称)としての呼びやすさを考慮した名称にはできなかったものかと改めて思う*26

近デジ終了後は、近デジサブドメインでの永続的識別子(info:ndljp/pid/数字)付きURLは、「当面の措置として」、NDLデジコレサブドメインでの永続的識別子付きURLにリダイレクトされるとのことだが、できれば当面と言わず継続して欲しいところだ*27

また、近デジ収録資料のURLはリダイレクトされるとして、その他の静的コンテンツのURLについてはリダイレクトされるのだろうか。

近デジの「資料あれこれ」だけでなく、過去の新規公開資料リスト(図書)等についても、何らかの形で継続してアクセス可能となると良いのだが。

*1:国立国会図書館サーチが提供するOAI-PMHを利用した。

*2:dcndl:materialType

*3:dcterms:rights

*4:静止画資料では、著作権に関する情報が「インターネット公開」となっていた日本占領関係資料の2,634件や、「インターネット公開(保護期間満了)」となっていた1件(前回の記事参照)が、「インターネット公開(保護期間満了)」の表記に統一された。また、和古書では、著作権に関する情報が未設定であった8件に「インターネット公開(保護期間満了)」の値が設定された。

*5:表記揺れのある資料としては、『国際子ども図書館の窓 第5号』が残っている。当該資料では、著作権に関する情報は「インターネット公開(許諾)」として、丸括弧が半角になっている。

*6:米国海軍の真相

*7:「インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27」に加え、「インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2010/12/27」を含む。

*8:経済新論』、『宝塚温泉案内

*9:日本美術画家列伝

*10:「インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01」に加え、「インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2012/03/01」を含む。

*11:維摩経物語

*12:論文集や全集、図録、講演集、報告集、設計図集などの集合著作物。その他、『建築工学ポケットブック』(訂5版第1 訂)が館内限定に変更されたが、版違いは日本建築学会図書館デジタルアーカイブスで閲覧できる。これまで公開されていたのがおかしかったと言えばそれまでだが、『震災予防調査会報告 第100号丙上』や『大正大震災記念建造物競技設計図集』が館内限定に変更されたのは惜しい。

*13:お墓詣』、『ネスフィールド氏第一英文典直訳註釈』、『ネスフィールド氏第二英文典直訳註釈』、『ねすふいーるど氏第一読本独案内』、『ねすふいーるど氏第二読本独案内 : 意訳附』、『ねすふいーるど第四読本直訳意訳 : 附・註解』、『ねすふいーるど英文典第三巻講義』、『ネスフヰルド氏英文典巻弐直訳註解』、『愛の杯 : 短篇小説』、『英文典講義』(第3巻第4巻)、『英文法摘要(涅氏)』、『演説家詩文 巻之下』、『欧米の新思潮』(第1輯第2輯)、『花吹雪隅田の夜嵐 : 糸屋の娘実伝』、『甘蔗糖及瓜哇製糖論』、『教の手引 第1』、『鏡山復讐実記』、『古素堂詩鈔』、『黒髪塚』、『児玉大将』、『自適園唫叢』()、『秦山集 信』、『正気堂詩鈔』、『石井常右衛門実記』、『宋元明清名家文鈔』()、『続唐宋八家文読本 : 纂評』(123456789101112)、『第三十八聯隊』、『地理端歌』(第1編第2編)、『通俗農家副業全書 巻4』、『日本最近政学調査記』、『勇士の涙』、『利息算捷径法』、『輪運動法 : 音楽適用 附・輪遊戯

*14:作文砕錦 : 3巻

*15:『ねすふいーるど英文典独案内 : 意解插入』(第一巻第二巻)、『安産と育児のしをり』、『駅三遺稿』、『学校及家庭用言文一致叙事唱歌』(第1篇 出征第2篇 露営第3篇 戦友第4篇 負傷第5篇 看護第6篇 凱旋第7篇 夕飯第8篇 墓前)、『光雲懐古談』、『秦山集』()、『秦山集 : 49巻』()、『榧園泉貨譜稿本 [2]』、『淺田宗伯手簡』(第1軸第3軸第4軸第5軸第6軸第7軸第8軸

*16:入手可能性調査の結果、新たに入手可能と判明した資料」の送信が停止されたものと思われる。

*17:下北郡地方誌』、『橿原の遠祖』、『橿原の遠祖』、『孔子廟参拝記』、『国民過去帳 明治之巻』、『神ながらの道』、『神道神話の精神』、『川内案内』、『地方文芸史』、『南進論』、『難訓辞典

*18:An English spelling-book, with reading lessons, for the beginners at the school Kaisei-dzio in Yedo』、『Bibliographie japonaise, ou Catalogue des ouvrages relatifs au Japon qui ont été publiés depuis le XVe siècle jusqu'a nos jours』、『Book for instruction at the school Kaiseizio in Yedo』、『Colloquial Japanese : or, Conversational sentences and dialogues in English and Japanese, together with an English-Japanese index to serve as a vocabulary, and an introduction on the grammatical structure of the language / by Rev. S.R. Brown, A.M』、『De historiae naturalis in Japonia statu, nec non de augmento emolumentisque in decursu perscrutationum exspectandis dissertatio : cui accedunt spicilegia faunae Japonicae / auctore G.T. [sic] de Siebold』、『Dictionnaire Japonais-Français』、『Eerste beginselen der Nederduitsche spraakkunst ter dienste der scholen in Nederlandsch Oost-Indië

*19:電子化時の注記には「6コマ右(序文)〜175コマ左(p332)には、別資料が綴じ込まれている。」とあるので、そちらの関係で館内公開に変更されたのかもしれない。

*20:未設定の8件を含めた。

*21:榧園泉貨譜稿本 [2]』、『淺田宗伯手簡』(第1軸第3軸第4軸第5軸第6軸第7軸第8軸

*22:東西染織文』、『鐵齋』、岡本一平ほか『東海道五十三次漫画絵巻』(

*23:『魁本大字諸儒箋解古文眞寶』(12)、『御用留』(享和元酉年ヨリ文化七午年迄自文化七午年至文政二夘年)、『文章軌範 正7巻続7巻』(文章軌範序續文章軌範百家批評註釋巻之四續文章軌範百家批評註釋目録正文章軌範百家評林註釋巻之四

*24:昇雲による錦絵(美人画)の48枚

*25:著作権者不明の著作物の利用に関する裁定及び補償金の額を定める件(文化庁三四)

*26:国立国会図書館のデジタル化資料」という一般名詞のような名称に始まり、「国立国会図書館デジタル化資料」、「国立国会図書館デジタルコレクション」と名称変更されてきたが、いずれも略称を付けにくい名前だった。

*27:英語版のお知らせでは「当面」との記載はない。日本語版の役所言葉を正しく英訳するとNULLになるのか、単に英訳漏れなのか、どちらかは分からない。